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鴨太郎と私 過去編②

鴨太郎と私 過去編②【篠原】 





「篠原か」

振り返らずに問うと、背後で頭を下げる気配がした。
伊東が謀反を起こして丁度一か月目の朝。篠原進之進。伊東の腹心。そして監察方である私の部下でもある。

「もう自由の身か」
「・・・・・いえ」
「同じようなものだろう。まさかお前が、私の目を謀るとはな」

大したものだ、と皮肉ると篠原が息を呑むのが分かった。
弟と同い年、どこか印象の似ている篠原を私は自分なりに可愛がっているつもりだった。
だがそれは本当に”つもり”だったらしい、と私はあの事件の時に知った。
篠原は入口から一歩も動かない。私は自分が座っていたベットの脇の椅子から立ち上がると、入口近くの壁に背を預ける。

「座れ」
「いえ、」
「次生きて会えるとは限らないよ」

私の言葉に、篠原の肩が震える。
伊東の容体は曖昧で、いつ目が覚めてもおかしくないが、いつ死んでもおかしくもないというものだった。
伊東と郷里が同じと聞いたが、付き合いも古いのだろうか。
そろり、と緩慢な動作で椅子に座り伊東を見つめる篠原にそれを問う気も起らず、頭の上に手を置く。
篠原の身体全体がびくりと震えた。

「まぁ、死にはしないだろよ。面の皮と同じでしぶとい男だ」
「先生は、」

掠れた声で私を見上げる。篠原もまたこの一か月で随分やつれたようだった。

「貴方達のことが好きでした」
「・・・・・・・・お前は、」
「不器用な人だったんです」

自分の立場も省みず伊東を庇おうとする篠原が健気で憐れで、私は頭の上にのせた右手で篠原の頭ごと抱きこむように自分の身体に押しつける。
座っている篠原との高さの違いで、篠原の顔は私の腹に埋まった。

「お前は、どうだった?」
「・・・・?」
「お前は、私達のことが好きだったか?」

篠原が、声をあげずに泣きだした。
私は黙って篠原の頭を撫でる。


愛することは容易い。だが愛されていることを知るのは存外に難しいものだ。
それを教えてやるのは本来母の役目だった。けれど伊東の母はその役目を果たさなかった。

「篠原、家族は健在か?」
「・・・っ、いいえ。俺には家族は・・・」
「じゃあ私達が家族だ。本当はもっともっとはやく言うべきだったんだね」
「・・昴流さん・・・・・」
「私が伊東・・・いや、鴨太郎と進之進の母となろう。だから、」


「今度間違えそうになったらその前に叱ってあげるから。」




篠原は今度こそ声を上げて泣き出した。
私は両手でその身体を抱きしめる。


ほらほら、早く起きなよ、鴨太郎。
せっかく家族が出来たのに。



早く起きなきゃもったいない。
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