fc2ブログ

鴨太郎と私 過去編⑤ 鷹久編

鴨太郎と私とお兄ちゃん



二か月が経ったある日。
その人は訪れた。
本当ならば真っ先に来なければならなかった人。


「失礼致します」

そう言って静かに入って来たその人に、誰かなどと問う言葉は不要だった。

「伊東・・・鷹久さんですね?」
「弟がお世話になりました」

深く頭を下げ、上げた顔はまさに鴨太郎に瓜二つだった。
違うと言えば眼鏡を掛けていない、ただそれだけ。
情報として鴨太郎が双子であるということは知っていたけれど、それにしてもこれだけ似ているとは。
驚きを表に出さないように注意しながら見つめると、鷹久はにこりと笑った。


「よく似ていると驚かれます」
「そう・・でしょうね」

鴨太郎も笑うとこんな顔になるのだろうかと思う反面、鴨太郎が笑わなくなった最初の原因を作ったのはこの人だ。どことなく複雑になりながら、鷹久に椅子を勧める。

「鴨太郎はまだ目覚めないんですね」
「ええ。もう二か月になります。怪我はほとんどよくなっていますし、腕の方もなんとか。あとは意識が戻るのを待つだけなんですが―――・・・」
「このまま意識が戻らない可能性も在る、ですね。先に担当医に話を聞いてきました」
「何故、もっとはやく」


もっと早く見舞いに来なかったのかと暗に責めると、鷹久は困ったように眉尻を下げた。
表情、仕草の一つ一つが鴨太郎とは別人だと告げているようで、本当に性格の違う二人だと認識させられる。

「実は―――鴨太郎と当家はほぼ絶縁状態でして、鴨太郎が怪我をして入院していると聞いたのは、つい先日なのです」
「そ、そんなはずは!!」

思わず声を荒げる。だって連絡した。何度も。

「どうも・・・母がその報せを私に届かないようにしていたらしいのです」
「!・・・・・どうして」
「母にもいろいろと思うところがあったのでしょう・・・それに私達は鴨太郎に嫌われていますし」

自重気味に笑う貴久に苛立ちが募る。自分がその原因だと思わないのだろうか。
もちろんこの人だけが悪いわけじゃない。母親だけが悪いわけじゃない。
鴨太郎にだって非はある。
互いに話し合わなかったこと。心の内を打ち明けなかったこと。
それがこの家族全員の罪だ。
ただ、幼かった鴨太郎や、病床にいた鷹久、看病に疲弊していた母親にそれを咎めるのはあまりにも酷で、全員悪いけれど、全員悪くない。
そして私にそれらを咎める権利などありはしないのだ。家族の問題に他人は不要。


「それにしても鴨太郎は、皆に好かれていたのですね」

鷹久は部屋の中をぐるりと見回して、顔をほころばされた。
手のひらのおまじない、シーツの横書き、壁に並べられた奇妙ながらくた、千羽鶴、そして眼鏡と制服。
一つ、一つに目を止め、愛おしそうに見つめる。
ああ、きっとこの人もまた不器用なのだ。
愛しているのに、愛していると言えない。まさに鴨太郎と瓜二つ。

「そんなことありませんよ。こいつ、性格悪いですから」
「あなたは、真選組の方ですよね」
「ええ、まぁ。鴨太郎には募り募った恨みがありますんで、起きたら真っ先に殴ってやろうかと」

日々そのタイミングを狙っているんです、そういうと、鷹久は声を上げて笑った。

「どうぞ、鴨太郎のことをよろしくお願いいたします」
「もう、お帰りに?」
「ええ。また、来ます」


少しだけ名残惜しそうに、貴久を立ち上がり深く一礼した。

「また、来てもいいかな、鴨太郎」

呟いた言葉に返事はない。けれど、きっと。
この家族がいつか分かり合える時が来たらいい。

「今度会う時は、思いっきり喧嘩することをお勧めしますよ」
「え?」
「正面から殴り合えば案外すんなり分かり合えることもあります。うちの副長と鴨太郎もそうでしたから」
「・・・・鴨太郎は本当に、幸せ者ですね」


鷹久はなにかあったらこちらに連絡をくれ、と携帯の番号を置いて病室を後にした。
残されたのは見舞いにと鷹久が置いていった花の香。
独特の匂いをさせたその花は実家の庭に毎年咲かせる花を摘んできたのだという。
鴨太郎が起きたら、花の名前を聞いてみようか。











それは突然だった。
少し席を外して、自販で缶を買って病室に戻ると、ぼんやりと身体を起こしている鴨太郎の姿があった。
あまりに突然で。
一瞬、医者を呼んだ方がいいのかと迷ったが、あまりに鴨太郎がぼんやりとしているものだから、不安になって静かに病室の扉を閉めた。


「かも・・・・伊東」
「・・・・君か。僕は、生きているのか」
「一応、ここは地獄じゃないよ」
「そのようだな。なんだ、この間抜けな部屋は」


ふふっと力なく笑う鴨太郎。
まっくろな字だらけのシーツを痩せた指で撫でようとして、左手がないことに気付いたようだった。

「腕、元には戻せなくてね」
「当然の報いだな。今日は何日だい?僕の処分は決まっているのか?」
「2か月眠ってた。横見てみなよ」

言われて鴨太郎が横を向く。そこには折りたたまれた真新しい制服と眼鏡があった。

「・・・・そんな、どうして・・・・」
「それは近藤さんと土方さんに聞くんだね。ほら、眼鏡」

ラッピングを紐解いて、眼鏡を耳にかけてやる。
壊れた眼鏡と全く同じ型のそれは、鴨太郎にとてもよく似合っている。

「あと、あんたと篠原は私が母親代わりすることになってるから」
「・・なんだい、それは」
「ちゃんと甘やかして、叱ってあげるからね、鴨太郎。だから・・・そんなに泣かないで」


ボロボロと、泣きだす鴨太郎を抱きしめる。以前、篠原にしたのと同じように。
涙はシーツの上にこぼれ、寄せ書きの一部を黒く滲ませた。



「おかえり、鴨太郎」
「・・・・ただいま」



ざわざわと、扉越しに賑やかな声が聞こえた。
面会時間も終わるというのに、遠慮なしの足音がだんだんと近づいてくる。
ガラリと開かれた扉と共に聞こえたのは耳をつんざくほどの歓声だった。


「せっせせせ先生!起きたのか!」
「いやぁ、随分寝坊しましたねぃ」
「た、大変だ!篠原、篠原~~!!!」
「たくっ、面倒かけさせやがって」

「せ、先生!」

退が慌てて篠原を呼び、飛び込んできた篠原は鴨太郎を見るなり、その場で泣きだした。
局長も大泣きで、そんな様子に皆が苦笑する。


「鴨太郎、ほら、」

私はそっと促す。
腕の中の男は少しだけ顔を赤らめて。

「・・・・ただいま、みんな」

その声は、とてもとても小さかったけれど。



「「「「おかえり」」」」


確かに私達には届いたから。
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

ブログで夢小説!ユメミニ
こちらで名前変換 変換しないと「昴流」になります
主人公の名前
   
最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
QRコード
QR