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鴨太郎としのと私3

「あ、これ鴨太郎のだ」




昴流は大量の洗濯物の中から隊長服を一つ取りだして、ふふっと笑った。
その声に、衣類を畳むのを手伝っていた篠原の手が止まる。
真選組の洗濯物は大所帯の上、制服がどれも同じだけに個々の分類が難しい。
かと言ってそれなりの年の男達に制服や下着に名前を書けというのも気が引ける。というかカッコ悪い。
死屍累々の戦場で「やまざきさがる」なんてタグに書かれた上着を見つけたら、涙を通り越して笑い転げてしまいそうだ。

そんなわけで平隊士達はもとより、人数が限られている隊長格の面々も自分の制服、という意識があまりにない。
洗濯されたものが目の前にあればそれが誰のものでもサイズさえ合えば構わず着てしまう。
だから綺麗好き・几帳面な隊士達は結構苦労する。
言わずもがな、篠原の上司もその一人であるが故、こうして篠原が洗濯物を取りこむという雑用を行っているわけなのだが。


「どうしてそれが先生の制服だとわかったんですか?」

篠原は昴流の手の中にある制服が間違いなく上司のものであることを確認し、首をかしげた。
実は伊東の制服は腕のボタンを目印変わりに別のものに変えてある。けれどそれは本当に少し形が違うくらいで、ほとんどの者は気付かない程度のものだ。

「うん?だって、鴨太郎の匂いがするもの」

問われた昴流は慣れた手つきで綺麗に制服を畳んでいく。
これが着物姿だったなら、きっと良妻に見えるに違いない。篠原自身は伊東とそうなって欲しいと願っているのだが、二人の距離は曖昧で、微妙なところだ。
その原因が昴流の無意識の内の意識にあることに篠原は気付いていた。



昴流は自分が家庭に入ることを全く考えていない。女として結婚出来ると思っていないのだ。
確かに彼女は元鬼庭番衆の頭領で、その戦歴は攘夷戦争を知らない篠原からみれば華々しいというよりはむしろ恐ろしい。
今は穏やかに過ごしているが、これが刀を握らせれば百戦錬磨の強者だ。
正直、戦争を経験していない土方や伊東、その他の幹部達よりも強いのではないかと思う。

だからだろう。彼女は自分に対してひどく無頓着だ。
廃刀令が敷かれてからは侍はもちろん忍も廃業となり、立場の低かった忍達も普通に結婚したりしている。
以前、昴流の元部下が結婚するからと贈り物をしていたからそれに対して異論はなさそうだ。
それじゃあ自分もそろそろ・・・と考えないのは、何故なのだろうか。
普通、女性というのは誰でも結婚願望があるものじゃないのだろうか。
篠原としては、伊東と昴流を全力で応援しているつもりなのだが、上司の素直じゃない性格と、ノリがいい割に、どうにも伊東に対する態度が悪ふざけから逸しない昴流は前に進むようで進まない。


昴流さんは、結婚はしないんですか?」

気がついたらそんな言葉が出ていた。あまりに不躾だっただろうか。
昴流が驚きに目を瞬く。

「どうしたの急に」
「いえ、なんとなくです」

気まずさに目を逸らす。でも質問を撤回するつもりはなかった。ずっと気になっていたことだ。

「そんなこと言ってもねぇ・・・私忍だし」
「忍でも結婚する時代でしょう」
「そりゃまぁ・・・そうだけど。でもあちこち傷だらけだしねぇ。もうそんな年でもないし」
「気になさらないと思います!その・・・惚れた相手でしたら・・・」
「あははっ、誰が惚れるの、私に」


先生が、とはさすがに言えなかった。当の本人はまだそれを自覚していない。
それに昴流に惚れている相手なら他にもいる。
あの元部下だといういつも片手にジャンプ持ってこっそり遊びに来る忍だとか、万事屋の男だって怪しい。
惚れているのとは違うが、沖田だって自分だっていつの間にかこんなにも懐いてしまっている。


「匂いなんてわかるものですか?」
「そりゃあ忍ですからねぇ」

突然変わった話題に戸惑いつつ、昴流は洗濯物を畳む手を再び動かし始めた。
当たり前のように返された言葉の中に含まれている意味に、ほら、貴方は気付いていない。

匂いなんてそうそうわかるものじゃない。忍の嗅覚が常人より優れていることを差し引いても。
現に四六時中伊東と一緒にいる篠原にだって伊東に特徴のある匂いを感じた覚えがない。
人の匂いなんか抱き合ったり、触れあったりそういうことを許される間柄じゃなければ感じないのだ。

伊東はそんなことを他人に許すような人間じゃない。穏やかになった今でも。
それだけ。
昴流はそれだけ伊東の近くにいるのだ。伊東が引いてきた他人との境界線の中にいるのに。
境界線を引いた当人も、その中にいる本人もそれに気付いていないなんて滑稽な話だ。


「じゃあ、はい、これ」

昴流が差し出した伊東の制服を篠原は受け取らずに他の洗濯物に手を伸ばした。

「よろしかったら、それ先生の部屋に持っていて頂けますか。ここは俺が片付けておきますから」
「別にいいけど・・?」
「丁度今朝、先生のところへ茶菓子の差し入れがあったところです。先生も俺もあまり甘い物は食さないので、片付けて頂けると助かります」
「行ってきます!!!」



昴流が遠慮なく伊東の部屋に行く口実を述べると、さすが忍、一瞬でその姿がかき消えた。















「鴨太郎、お菓子食べにきたよ!!!」
「なんだね、君は突然」

バーーン!と効果音が付きそうな物音を立てて部屋に飛び込んできた昴流に鴨太郎は顰め面で顔を上げた。
書類の上で墨がたれそうになり、慌てて筆を硯の中に横たえる。

「しのが、鴨太郎がお菓子隠してるって!!」
「隠しているとはなんだ。元々僕が貰ったものだぞ」
「でも鴨太郎、甘いの食べないもん。だから私のだもん」
「なんだそのジャアニズムは。誰がそんなこと言ったんだね」
「しの」
「・・・・・・・・・・・まぁ、いい。じゃあ」
「鴨太郎お茶!!!」
「・・・君は沖田君か!」


茶でも淹れてくれ、と言いかけた相手に茶を所望された。
立場上、どう考えたって茶を淹れるのは昴流のはずだ。
男尊女卑を言うつもりはないが、それを差し引いたって上司の部屋に菓子をたかりに来てその上茶を淹れろとは何事だ。


「しかもそれは僕の制服じゃないかね」
「うん、そう。お菓子のついでに届けにきた」
「逆だろ。茶菓子がついでだろ!どこまで図々しいんだ君は!」
「あ、そうだ、答え合わせしなきゃ」


机の上を片づけながら怒鳴ると、昴流が僕の背中に貼りついてきた。
ぐりぐりと顔を背中に押しつけてくる。

「なんだ今度は・・・」
「だから答え合わせ!」
「それは何かと聞いている」

どうもまともな会話にならない。仕事中は至極まともだから、これはわざとなのだろうかと思ったことは一度や二度じゃない。だが彼女のそんな言動は、極身近な人間しか発揮されないのだと知ってからはそれほど気にならなくなった。特に自分といる時は言動が幼くなるような気がするのは気のせいじゃないだろう。

「ふふふっ、やっぱり正解」
「なにが正解なのかね?」
「ないしょーーーー」

そう言いながら離れるつもりがないらしい彼女を押しのけるわけにもいかず鴨太郎は右手でずれた眼鏡を押し上げる。これではどちらが淹れるにしろ、茶が飲めるのはあとになりそうだ。


「先生、失礼します」

ため息が出かかったところで部下の声に顔を上げた。昴流は動く様子もない。男に抱きついている場面を見られて恥ずかしくないのだろうか。僕はいやだ。
どきたまえ、と言う前に、篠原が障子を開けた。

「先生、お茶を持って参りました」

一礼して入って来た篠原の手には確かにお茶のセットを乗せた盆。しかも二人分。
二人の体制を見ても驚かないところはさすが、昴流をけしかけた張本人と言ったところか。


「しのーー、やっぱり正解!」

子供のような声をあげて背中に顔を押しつける昴流
そんな彼女に篠原はそうですか、と頷いた。どうやら篠原は昴流の言動に心当たりがあるようだ。

「なんのことだ、篠原」

思わずそう問う。すると篠原は控えめ目を細め、

「内緒です」

昴流と顔を見合せて笑った。


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