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鴨太郎と私と憂鬱

鴨太郎と私と憂鬱
「・・・・・・どしたの、全蔵」

いつもの時間、市中見廻りから自分の部屋に戻るとそこには御庭番衆時代の部下、服部全蔵が正座して待っていた。
その横にはジャンプが置いてある所を見ると、おそらく昴流が戻る直前まではそれを読んで暇を潰していたのだろう。隠す気もないところが全蔵らしい。

「頭領、久しぶり~~!ちょっとさ、嫌な噂聞いたもんで確かめにきた」
「嫌な噂?」


元御庭番衆の部下達はそれぞれ別の職につきながらも、裏で忍の腕を生かした仕事を続けている者も多い。
全蔵も昼間ピザ屋で働き、夜は忍として活動している。その中で、真選組に役立つ情報を持ってきてくれたことは一度や二度じゃなかった。

「攘夷志士になにか動きでもあった?」
「え?ぁあ、違う違う。そっちじゃなくて」

正面に正座して座ると、全蔵はまるで気のない返事をして首を横に振った。

「頭領にさ、悪い虫が付いてるって噂」
心当たりある?と首を傾げたその目は笑ってない。
「悪い虫・・・って、どういう意味?」
普通に考えたら、悪い男と関わっているんじゃないかって意味だろう。
けれどその心当たりは全くない。第一、真選組にいる以上プライベートなんてものは存在しないのだ。

「全然ないけど・・・っていうかここには隊士しかいないし」
「その隊士ってのが、怪しいんじゃねぇ?」
「はぁ!?そんなことあるわけないじゃない。だいたいここには退もいるんだし」

悲しいかな、弟のせいとは言わないが隊士で私を口説いた人間は過去一人もいない。
それも当然だろう。御庭番衆という経歴を持つ私は正直、どの隊士よりも強い。
よって男所帯の中に女一人でも、全蔵が危惧するような事態に見舞われたことはないのだ。

「ねぇ、その噂ってどんな噂なの?」

全く心当たりがないだけに、その噂がどんなものなのか気になる。もし、妙なでたらめを吹聴している奴がいるのなら、一度マットに沈めておく必要があるだろう。
じぃっと、全蔵を睨みつけると負けじと全蔵も視線を送ってくる。それはこちらに探りを入れているようで気分が悪い。

「謀反した隊士、そのまま此処にいるんだって?」
「・・・・鴨太郎のこと?」
「鴨太郎?随分、親しいんだな。名前で呼んでる隊士って他にいた?弟と弟分くらいだったのに」
「まさか鴨太郎と私がどうこうとか言いたいわけ?」
「そのまさかなんだよなぁ。で、どうなの?」
「どうなのったって・・・・」


どうなのだろう。
恋愛感情はあるのかと聞かれても、正直よくわからない。
そもそも恋愛自体したことも、することも考えたことないのだ。だってもし私が好きだって思ったって、
忍としてあまりに多くの命を奪ってきた自分が幸せなんて、

「有り得ないから、そんなの」

望めるはずもない。














「うーん」

ゴロゴロと畳の上を転がる。まだ腑に落ちないような顔をした全蔵を追い出した後、なんとなく仕事をする気になれなくて、部屋に寝っ転がっていた。

「おい、報告書はまだか」
「あイタッ!」

転がっていた頭にゴツンっと何かがぶつかる。それは男の足だった。それは無遠慮に昴流の頭を何度もこづく。

「鴨太郎、痛い!」
「だったらさっさと起きたまえ。そして報告書を出せ」
「あー、そこの机の上」
「真っ白か!」

一文字も書かれていない報告書を見て、鴨太郎が怒鳴り声を上げた。
仕方なく身体を起こして机に向かう。けれどやっぱり何もする気になれずに鴨太郎の方に振り返った。
私のすぐ後ろに腕組みして仁王立ちしている鴨太郎の足に、背もたれ代わりによっかかる。


「なんだね」
「な~~にも」
「そうは見えないが?さっきから辛気臭い」
「別にーー。ただ寂しいなぁと思って」

いじけたようにそう言うと、眼鏡の奥の鴨太郎の瞳が訝しげに瞬いた。

「なにがだね?」
「その内、退も総悟もしのも、・・・鴨太郎もみ~んな、お嫁さんもらって屯所から出て行っちゃうのかなーと」

基本的に屯所は独身の隊士で占められている。結婚した隊士達は付近に家を持つのが通例だ。
まぁ近藤さんだけはきっと独身のままだろうと失礼な確信はあるのだが。
土方さんはどうだろう。あの人はいつでも死ねるようにと家族は作らない気がする。なんとなくだけど。


「君は出ていかないのかね?」
 
いじけて完全に体重を鴨太郎の足にかけた私に、鴨太郎が訪ねた。

「出て行く理由ないでしょ」
「一生ここで過ごすつもりかい」
「他に行くところないし」
「そうか」
「そうだよ」


手から離れた筆が机の上をコロコロ転がっている。

昴流
「うん?」
「僕も他に行く宛てがない」
「でも、その内見合いでもしてお嫁さんもらうんじゃない?」

そう言うと、鴨太郎は呆れたようにため息をついた。

「あれだけの騒ぎを起こした僕に今更見合い話があると思うか?」
「そう?でも、」

対外的には鴨太郎は奇兵隊の近藤暗殺にいち早く気付き、現場に赴いて怪我をしたことになっている。
鴨太郎自身が起こした謀反事件だと知っているのは、あの場にいた隊士のみだ。

「ないよ」

言おうとしていることがわかったのか、鴨太郎が私の言葉を遮る。

「そうかな」
「そうだ」
「ふーん、そっかぁ」
「ああ。だから、君一人残されることはないから、安心したまえ」

ぽんっと大きな手のひらが私の頭の上に乗る。

私はもう一度、そっかぁ、と呟きながらふふふっと笑った。


「さて気は晴れたか?だったら早く報告書を書きたまえ」
「はーい」
「まぁ、もっとも」
「うん?」

鴨太郎は小さな声で呟いた。

「君を一人置いていく者など、この屯所にいるとは思えないがね」

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