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鴨太郎とマヨネーズと私

鴨太郎とマヨネーズと私
目の前には天井に届きそうなほどの書類の束が積まれている。
それは部屋一面に溢れかえっていて、その中には三人の大人が一畳のスペースに身を寄せ合って一心不乱に筆を滑らせていた。

「ふふふふうふふ、減らない。全然減らない」
「口よりも手を動かしたまえ昴流君」
「そういう伊東、てめぇもさっさと手を動かしやがれ」
「誰の不始末だと思っているんだね。部下の不始末は上司の君の責任だ」
「うっせ!!どこか俺の責任だ!?俺なんもしてねーし!総悟どこ行ったんだ、総悟ぉおおおお」


口元にマヨネーズのチューブをしゃぶりながら、土方が叫び出すのを伊東は黙殺し腕を動かした。
この部屋いっぱいの書類、それらは全てここ一か月で総悟がバズーカで壊した建物及び公共道路諸々の始末書の束だった。その当人はとっくにとんずらを決め込んでいて何処に行ったやら一向に見当たらない。
破壊された街の片付けに駆り出されている隊士が大半で、総悟を探す役目は今のところ退一人に任されている。
多分、いや、絶対総悟を捕まえることは無理だろう。
誰もがそう思っているからこそ、こうして三人は始末書の束の前で張本人の代わりに格闘しているというわけだ。
かれこれ二日引きこもりの徹夜。三人とも髪はぼさぼさ目には隈。全くひどい有様である。


「しの~~~お腹空いたよーー」
「篠原は今、使いに出ている。ぁあ、もう声を荒げるな、土方君煙草とマヨネーズをやめたまえ!」
「じゃあどうしろってんだろ。俺のこのマグマのような怒りはどう発散すりゃいいんだよ!」
「だから元々君の責任だと言ってるだろ!どうして僕まで手伝わなきゃならないんだ!」
「そうよ!なんで私まで駆り出されるわけ!?こんなん副長と局長の仕事でしょうよ!」
「はぁ!?ふざけんな!書類仕事はお前の得意分野だろ!なんの為の参謀だ!?その眼鏡は伊達かこの野郎!」
「そうだ、そうだ!!参謀は参謀らしく筆すべらせときゃいいんだよ!」
「お前はどっちの味方だ!!」
「君はどっちの味方だ!」

バンッと誰ともなく机を叩く音がする。ダメな大人三人はぜぃぜぃと息を切らせそれぞれの顔を見つめた。

「・・・・・・・・止めよう、不毛すぎる」
「だよね。この中の三人は誰も悪くないんだし」
「悪の元凶は総悟だ。くっそ、今度こそあいつぶっ殺して従順なサイボークに改造してやんよ」

ガリガリと頭をかいて、土方はもう何本目かわからない煙草を取り出した。
そして伊東と昴流の顔をちらりと見つめて腰を上げる。

「ちょいと煙草吸ってくらぁ」
「なら私も休憩。なんか食べよ。あ、鴨も食べる?」
「そうだな、頂こうか」

昴流が台所へ行っている間、伊東は簡単に書類を机の脇に寄せた。
ほぅ、と壁に背を預けて息を吐く。
足音が聞こえて顔を上げると、昴流がお盆にペットボトルとおにぎりをのせて帰って来た。

「ん」

ペットボトルの蓋を開けてそのまま伊東の手に渡す。
片腕の伊東に対する気遣いだろうが、それが出来るならペットボトルじゃなくコップに注いでくるのが女性の気遣いというものだ、なんていつもなら言うところだが今はその気力もない。
黙って受け取り冷たいお茶を一気飲みする。半分ほど飲んで喉を潤したところで、蓋を探す。
こぼしてせっかく片付けた書類を濡らしてはたまらない。

昴流君、蓋」
「ん、んと・・・あれ、どうしたっけ?」
「君が開けたんだろう。その辺に置いたんじゃないのか?」
「え~~っと、ん~~」


ひとしきり周りを探すが見つからない。
なんだかもう面倒くさい、というのが二人の共通の見解で伊東はもういい、と首を振った。
昴流もだよね、と頷く。もうなにもかも面倒くさい。

「じゃ、それちょうだい。私のまだ開けてないし、全部飲んじゃう」
「君がそれで構わないなら」

いつもなら女性が男の飲みかけを、なんていうところだがやはり今は正常な思考回路を保てていないらしい。
極度の疲労に二人とも投げやりで、昴流に自分の飲みかけを渡す。
彼女がペットボトルに口をつけるのを見つめながら、自分もおにぎりに手を伸ばす。
三口ほど齧った後に出てきたのはツナマヨで伊東は舌打ちをした。

「これは完全に土方君用だな。ツナマヨじゃなくて、マヨツナだ。マヨネーズの中にツナが泳いでいるだけじゃないか。そもそも邪道なんだ。マヨネーズでご飯を汚すなんて尋常じゃないね」
「ぁあ、分かる。なんかお好み焼きにマヨとか普通なのに、なんか副長みたいだな、とか思うとダメなんだよね。野菜にマヨが正しいのに、副長見てるせいでマヨネーズを何にかけるのが正しいのがよくわかんなくなってる」
「梅干しはないのか、梅干しは。最近梅干しみたいにマヨネーズ見ただけで唾が出てくる自分に嫌気が差すんだ。もうなんかマヨネーズ見てるだけで、食べた気になって口が酸っぱくなってくる」
「鴨太郎、参謀なんだからなんとかしてよ。局中法度にマヨ禁止とか駄目なの?そうなの?」
「あれは元々土方君考案だからな。さすがの僕も手が出せない。マヨ禁止か・・・この間の禁煙騒ぎの時みたいにとんでもないことになりそうだな」
「マヨ王国本気で探しに行ったりして・・・あ、これ梅干しだ。鴨太郎、食べる?」


昴流が差し出した食べかけのお握りの上には赤い梅干しが鎮座していた。
手元にはマヨネーズたっぷりの汚されたご飯。
伊東はずりずりと行儀悪く尻を畳に擦りながら昴流の元へ移動して、そのおにぎりに食らいつく。
梅干しは想像通りの酸っぱさで、素朴な味が喉を通った。


「美味い」
「だよねぇ」


もはや全く食べる気のしないツナマヨを右手に持ったままで昴流の手から梅干しおにぎりに食らいつく。昴流も伊東に差し出した左手をそのままに、右手で自分のお握りを持って食べている。
ちらりと見ると中身は鮭のようだ。それもまた塩が利いていて美味しそうだ。


「そっちも美味そうだな」
「ん」


素直にそう言うと、昴流が鮭を伊東に差し出し、自分は左手のもうほとんど梅干しのないお握りの残りを口に運んだ。伊東は何も言わずに鮭を口に運ぶ。
こんな野良猫が餌を食べるようなこと普段なら絶対にしないし、昴流も付き合わない。
だがやっぱり今の二人は正常じゃなくて、そんなこと気にも留めない。精神的にギリギリなのだ。


「おい、何食ってんだコラ」

そこに煙草を吸い終えた土方が帰って来た。ヤニの匂いがひどくて食事中の二人は顔を顰める。
だがそんなこと気にも留めない土方は腰を下しておにぎりの乗ったお盆を見つめ手を伸ばす。


「ぁあ、土方君。まずこっちを食べたまえ」
「ぁ?マヨか?つかてめぇの食いかけじゃねぇのか」
「どうでもいいだろ、そんなこと。君用にマヨネーズたっぷりだ。食べたまえ」
「ぁあ、まぁそうだな」


何度でも言おう。今この場に正常な思考の人間はいない。
土方は伊東の差し出したツナマヨにそのまま齧りついた。伊東の手から直接。
そしてその伊東は昴流の手から鮭おにぎりを食べている。




カシャリ。


軽快なシャッター音が一瞬して三人は障子の方向を振り返った。
だがそこにはなにもない。三人は疲れた頭で何かと考えるが、すぐにどうでもいいや、と食を優先する。




幹部三人のただれた関係


そう題名付けられた貼り紙が屯所に貼られるのはそれから三日後。
書類をすべて片付け正常な思考を取り戻した三人が、貼り紙の写真の中の三人入り乱れの犬食い状態に悶絶し、退と近藤に三人揃って説教されたのは、全てドエス王子の仕業であることは言うまでもない。



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