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鴨太郎としのと私2  

鴨太郎としのと私2  



篠原進之進は監察方の人間である。
以前は伊東の元についていたが、伊東一派として謀反に加担した過去があり、今は同僚の山崎の部下ということになっている。要するに監察しながら、監察されているわけである。
その伊東も本当ならば除名処分されるところを近藤の温情で平隊士に降格処分されるだけで済み、更にその後実力で再び参謀まで伸し上がったのだから、篠原が今更自分の処分に不平があるはずもない。
例えそれが同期の同僚の下に付くという屈辱であっても、参謀に返り咲きながらいまだ幹部に監視されている伊東に比べれば、小さなものだ。
最も伊東はそれを不服などと思っておらず、また幹部達に悪意があるわけでもない。
あの戦いを経てむしろ深まった絆の前に、処分などは上の連中を納得させるだけの建前に過ぎないのだ。

だから処分という言葉の重さの響きにも関わらず、伊東も篠原も実際のところ不平不満無く生活している。
一応監視されているという建前から多少の不便はあるが、自分達の犯した罪に比べればなんてことない。
人斬り集団どころかお人好しの集まりだ、と口に出したことはないが尊敬する元上司もそう思っているはずだ。


そのお人好しの筆頭が、畳の上に転がっているのを見て、篠原を笑いながら息を吐く。
以前伊東と壮絶な悪口の応戦をしていたのが嘘のように優しくなった彼女は、今座布団の上で猫のように丸くなっていた。


昴流さん、そろそろ止まったらどうです?」
「んにゃ~~」
「そんな風に座布団抱えて転がっていたら、本当に猫になってしまいますよ」
「にゃーーー!!」


篠原よりも年上の、それなりの歳の女性が畳の上をコロコロ転がっている姿など中々お目にかかれない。
いつもポニーテールにしている長い髪はぐちゃぐちゃに乱れ、結い紐は遠くに転がっている。
しかも猫語を放っている。普通女性が「にゃ」なんて言ったら可愛くて悶えそうなものだが、生憎今の彼女に可愛さの欠片もない。本気で動物園の動物のモノマネをしているような昴流の様子にため息を吐く。


「伊東先生も決して悪気があったわけではないかと」


そう、この昴流の奇妙な行動の原因は何を隠そう尊敬する上司だ。
例え悟りを開いた人間といえど、それまで培ってきた性格は中々治らないもので。
一度スイッチが入るととことん人を蹴落とす言動癖のある伊東が、昔のように昴流と口喧嘩をし、結果負けた昴流がこうして篠原の元で拗ねているのだ。



「全く君は教養のない人間だな。いや、忍だから道具か?道具ならば道具らしく猫の餌を盛る皿の真似でもしたらどうかね?ぁあ、それよりも猫の真似の方が面白いか」


どのような経緯で伊東がこのような発言に至ったかまでは聞いていない。
しかし何が原因でも言い過ぎだというのが万人の意見の一致するところだろう。
忍発言に至っては奴隷の身分差別に等しい。
確かに昔は忍は草の根の者として、人ではなく道具扱いだった。昴流自身も自分をそうして卑下することが時々ある。そしてそれに弟の退や近藤が憤慨していたことも篠原、いや真選組なら誰でも知っている。


だからこそ言ってはいけない言葉だった。
だが篠原は一つ確信していることがある。

その言葉を放ったその瞬間から、伊東が激しく後悔しているだろうということを。




昴流さん、きっと伊東先生が謝りにきますから」

「にゃーー!」


昔、まだ昴流と伊東が仲が悪かった頃、そんな言葉のやりとりは日常茶飯事だった。
その頃の癖でつい、言いたくもない言葉が口から飛び出てしまったのだろうと篠原は推測する。
きっと先生のことだから、謝る、という行動自体どうしたらいいかわからず右往左往しているに違いない。
なんたって友達と喧嘩して仲直り、なんてしたことのない人だ。
唯一仲直り出来たとしたら、あの謀反騒動のやりとりくらいだろう。
普通の喧嘩なんてしたことないだろうから、今頃困り果てているに違いない。
自分が悪いと分かっているなら尚のこと。プライドの高く、そのくせ臆病な伊東が謝るという行動を起こすには勇気がいることだろう。



ごろごろと畳の上を転がるのを止めない昴流にさてどうしようかと篠原は携帯を取り出す。
メニュー画面を開いて、山崎退の名前を呼びだしたところで足音が聞こえ、篠原は携帯から顔を上げた。
障子には見慣れたシルエットが一つ、くっきりと浮かび上がっている。



「ああ、先生」

篠原は安堵の声をだし、昴流はその声にキッと障子の向こうを睨んだ。
障子を開ければ想像通り、少し落ち込んだような伊東の姿。

「どうぞ。俺はしばらく山崎さんのところへいますので」
「ああ、すまない」

小声でされるやりとりに昴流はずっと耳を澄ませて聞いていた。
篠原が部屋を出てその代わりに伊東が入室し静かに障子を閉める。
まだ昼過ぎで電気をつけなくても明るい室内に二人、伊東は気まずそうに昴流の傍まで歩み寄ると、ぼさぼさに乱れている長い髪をするりと右腕で撫でた。


「すまなかった・・・・その、言い過ぎた」
「・・・・・・・」
「悪気はなかったのだが・・・つい、調子に乗って」
「・・・・・・・」


ふいっと昴流はそっぽを向く。
その様子に困った伊東はどうすればいいか分からず、昴流の髪を撫で続ける。
その手は振り払われないのだから、嫌われたわけじゃないと思いたい。
もっともあんなことを言っておいて、今更嫌われたくないなんて虫いい話なのだが。

なにか手立てはないものかと考えるが、策士にも苦手分野というものはある。
人のとの付き合いというものが最も苦手な伊東からすればこれは難問中の難問だ。


「どうすればいいか、教えてくれないか」

結局口から出たのはそんな情けない言葉で、これならマダオと呼ばれる長谷川さんの方がもうちょっとうまいこと言うだろうと思うが、他に思いつかないんだから仕方がない。
これが恋人だとか同性の友人だとかいうならまだなんとかなりそうなものだが、相手は異性の同僚、二人の関係は非常に曖昧だ。

どうしようかと天井を見上げると、その天井板がするすると動きだした。
なんだこれは。そう思って凝視していると、部下がひょこりと天井板の間から顔を出し、続けて白い画用紙に書かれたカンペが出てきた。


『君の心を傷つけたお詫びがしたい。僕にそのチャンスを与えてくれるね』

思わずそのまま棒読みしてしまった。
なんだ、このクサイセリフは。ハーレ〇イーンか。それともベ〇ばらか?
なんのつもりだ、篠原、と口に出そうとした瞬間、昴流が猫の真似をしたまま四つん這いで伊東の膝の上に乗ってきて、伊東を見上げてきた。
篠原がペラリと画用紙を捲る音がする。そこには

『君の望みを言って欲しい。そして僕に許しをくれないか。君に触れる許しが欲しい』

おいおいおいおい、なんか違くないか。最後の方違くないか。
っていうか声に出して読んどいてなんだけど、同僚や友人に謝るセリフじゃないよね。
思いっきり恋人用だよね。
あれか。やっぱり篠原は僕と昴流君をくっつけたいのか。
ナニでナニの関係にしたいのか。

そして昴流君、君は何故僕の膝の上に乗って動かない!?
何を期待している!?この伊東鴨太郎に一体何を期待しているというんだ!?

篠原お前もなに「いっちゃいなよ、YOU」みたいな顔してんだ!ぶっ飛ばすぞ!
親指を立てるな!グットラックみたいなポーズをするな!


「鴨太郎」
「ん?ぁあ、なんだい」

篠原に気を取られていると昴流が猫のように頬を僕の胸にすりつけてくる。
そして





ハーゲンバッシュ一ダース買ってこい。今すぐ



まるでどこぞのキャバ嬢のような般若顔で、こちらを見上げる昴流
その言葉に頭の上からすすり泣く声が聞こえ、僕は無言で懐の財布に手を伸ばした。



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